なにわの怪談師 れんれんの怪談ブログ

オリジナルの怪談や都市伝説、不思議な話を発信していきます。

20話公開記念 長編怪談 「名前」

知人の身に実際に起きた話。

以下、知人をAとします。

Aは今、偽名を使って生きています。

その理由は3年前に起きた

ある出来事がきっかけでした。

 


3年前、Aは趣味の山登りをしていました。

いつもと同じようにしていた山登りですが、

その日は何かが違いました。

普通に歩いているはずなのに

一向に登っている感じがしないのです。

「あれ?おかしいなぁ」

と思いつつも歩き続けます。

 


30分ほど歩いたのですが

さすがになんの変化もないのはおかしいし

疲れもあったので一旦立ち止まり

休むことにしました。

10分ほど休んでいたら

遠くの方から何かが聞こえてきました。

 


「お経…?」

 


何故か山奥でお経らしき声が

聞こえてきたのです。

Aはあまりの不気味さに

しばらく呆然としていました。

 


ハッと我に帰り、咄嗟に

「ここにいてはまずい」と思い、

下山しようと山道を早歩きで進み始めました。

 


しかし、歩いても歩いても、

景色は変わるのに

今いる位置が変わっている感じが

しないんです。

 


そして、さっきからずっと

お経らしき声が近づいてきている…。

 


怖くなりAはひたすら真っ直ぐ

山道を走りました。

 


「危ないっ!!」

 


なんと突然、目の前に

大きな寺が現れたのです。

どう考えても

さっきまでは何も無かったはず。

 


上に行っても下に行っても

どこにも辿り着けません。

いよいよ本当に

帰り方が分からなくなってしまいました。

 


すると、寺の扉が

異音を立てながら開きました。

 


中から、住職のような人が

現れ、近づいてきました。

 


何故か

歩いてるような感じはせず、

まるで、宙に浮いてるようでした。

 


「そこで何をしている。」

 


「いや、山登りをしていたら…」

わけを説明をしようとした

その瞬間に目の前が真っ暗になりました。

 


次に目を覚ましたときには和室にいました。

おそらく例の寺の中だと思います。

 


ハッとなり起き上がると

さっきの人とはまた違う住職らしき人が

近くに座っていました。

 


「お主は知らんで良いことを知ってしまった。すまぬがもう帰すわけにはいかん。」

 


突然、そう聴こえて来ました。

しかし、ぱっと住職の方を見ても

微動だにしていないのです。

なんというか、

心に直接話しかけているような

そんな感じでした。

怖くなったAは、逃げ出そうと立ち上がり

走ろうとしますが

足がもつれて転んでしまいました。

 


「すまんな。」

さっきの声がまた聞こえました。

流石に、命の危険すら感じ始めたAは

何度も走ろうとしますが、

上手く歩くことすら出来ませんでした。

 


そうしているうち、住職が立ち上がり

こっちに来ているのが横目に分かりました。

 


「帰りたいのなら、ここに名前を。」

 


次はそう聴こえてきました。

「え?名前?」と思っていると

目の前に巻き物のようなものが落ちてきました。

 


その巻き物はひとりでに床に転がり

中には契約書?誓約書?のようなものがありました。

(A曰く、スタジオジ○リの某映画のワンシーンのようだったと後日談で話してくれました。)

 

 

 

また声が聞こえてきました。

 


「そこに、書け。」

Aは何がなんだかわからないまま、助かりたい一心で名前を書きました。

書き終わると、巻き物はまた、ひとりでに戻り

天井へと消えていきました。

 


「今書いた名前は使えぬ。新たなる名をつけて、その名を大事にしろ。」

 


そう聞こえたのを最後に、

声は聞こえなくなりました。

 


ふと気づくと足は動くようになっていました。

恐怖で体が震えてはいましたが、

なんとか歩けることに安心し、

扉がある方へ向かいました。

 


近付くと、扉はひとりでに開きました。

「よかった、帰れる。」

安堵しながら寺を出ました。

 


寺を出た瞬間に、強い風が吹き

同時にさっきまで見えていたはずの

寺は見えなくなりました。

 


しばらく呆然とした後に

周りを見渡すと、元いた場所にいました。

「本当によかった」

 


ただ、ひとつ気がかりなことがありました。

それは、「名前はもう使えない」という

住職の言葉。

 


Aは試しに、自分の名前を言おうとしました。

その瞬間に声が出なくなりました。

どれだけ言おうとしても、声が出ないのです。

 


普通に話す分には話せるようです。

ただ、自分の名前を言うときだけ

まるで封印されたかのように声がでなくなるのです。

 


どうすることもできないので

Aはその日から偽名を名乗るようになりました。

 


あの日から3年経った今も

Aは元の名前を声に出そうとすると

声が出なくなるそうです。

 

 

 

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